研究テーマ1の詳細: 不均一性を操る結晶成長に基づく光半導体の新機能創出
背景
原子層レベルでの膜厚と組成の制御性を有する現代の結晶成長技術は, 情報通信の基盤をなすレーザーダイオード(LD)や照明に革新をもたらした発光ダイオード(LED)に代表される 半導体光デバイスの実現を支えてきました.一方で,高い均一性を追求してきた従来の結晶成長では, 一つのデバイスからの発光色は基本的に単色に限定されます. 一方で,近年注目されている高機能性応用(図1: 照明スペクトルの任意合成,波長多重光通信,マイクロLEDディスプレイなど) では高度な多波長発光制御が要求されます.現状では,その実現のために複数の素子や波長変換材料を組み合わせる必要があります. このような個別素子の集積や異種材料との統合は,構造の大型化,作製プロセスの複雑化・生産性低下, さらには波長変換に伴うエネルギー損失・高速応答性の低下につながり,理想的なアプローチとは言えません.
研究目的
この課題に対し,当研究室では従来の「不均一性は排除すべきもの」という結晶成長科学の基本思想を転換し, 「不均一性を積極的に設計・制御する」という新たなパラダイムを提案しています.具体的には, 微細な空間スケールで巧みに設計された成長表面構造による結晶成長ダイナミクスの局所制御を通じて, 光半導体の特性を空間的に自在に操る学理と技術の構築に取り組んでいます. これにより,バンドギャップを空間的に制御し.単一素子内に所望の波長成分を集積することが可能になります(図2). さらに,こうした知見を応用して,従来の均一結晶では実現困難な革新的な光機能性をもつ材料・デバイスの創出を目指しています.
本研究の先には,持続可能社会に向けた省エネ光デバイスや, 高度情報化社会に求められる小型・高機能な情報デバイスの実現が期待されます. 応用例として,発光機能の面では,単一基板上で発光色をモノリシックに制御することによる, 小型・高精細なフルカラーディスプレイや,蛍光体フリーな高効率かつスペクトル可変の白色LEDが挙げられます. 受光機能の面では,光吸収スペクトルの空間設計によって, 材料自体が分光・波長選択機能を担う光学部品フリーな超小型センサーの実現が期待されます. さらに,ポテンシャルのナノスケールでの変調を利用すれば, キャリアの空間的蓄積や発光位置の操作といった高次機能も期待されます.
研究方法
1. 表面微細構造のエンジニアリング
結晶成長を思い通りに制御するための第一歩として,成長基板の表面にマイクロメータースケールの微細構造を形成します. これには,自発的構造形成や人為的パターニングを用います.たとえば,選択成長プロセスを利用すると, 特定の結晶面で囲まれたマルチファセット構造が自己形成されます(図3左側,[1]). 一方で,より自由度の高い構造制御を目的に,サーマルリフロー法やグレースケールリソグラフィ法によって感光性材料 (フォトレジスト)を任意の形状に設計し,それを成長基板に転写する方法にも取り組んでいます(図3右側,[2],[3]). こうした微細構造の設計が,後の結晶成長ダイナミクスを空間的に制御する基盤となり,目的とする光機能の高度化につながります.
2. 機能層のエピタキシャル成長と特性評価
1 で作り込んだ微細構造の上に,有機金属気相成長法(MOVPE)を用いて, InGaN発光層やn型・p型の電気伝導層などの機能層を高品質にエピタキシャル成長させます. 成長後には,設計通りの発光特性分布になっているか, あるいは,微細構造によって発光特性や構造分布がどのように変化しているかを詳細に調べます. 具体的には,電子顕微鏡や X 線回折などによる構造評価, 電子線励起分光法やマイクロフォトルミネッセンスなどによる発光特性評価, 電気測定などを組み合わせ,特性の空間分布を多面的に解析します(図4,[2],[4]). これらの知見を積み重ねることで,結晶成長過程でどのように構造と物性が生まれ, 設計した微細構造が実際にどのように機能しているのかを理解します. その知見をもとに,光半導体材料の空間的な特性制御を可能にするための新しい結晶成長の学理と制御指針の確立を目指しています.
3. 革新的光デバイスの動作実証
2 で得られた知見をもとに,単一基板上で発光色を自在に制御し,多波長発光機能を持つデバイスを試作・動作検証します. 具体的には、エピタキシャル成長で作製した試料に対して電極形成プロセスを施し,発光デバイスとして完成させます. そして電流注入下で実際にデバイスを動作させ,その発光特性やエネルギー効率,スペクトル制御の自由度などを評価します. 図5に,本研究を通じて作製した微細構造に基づく多波長発光ダイオードの一例を示しています[1],[3],[5]. こうした一連の試作と評価を通じて,本研究で確立した不均一性の設計・制御技術が実際の光デバイスに応用可能であることを示し, その高機能化と省エネルギー化への貢献を実証します.
参考文献
- M. Funato, T. Kondou, K. Hayashi, S. Nishiura, M. Ueda, Y. Kawakami, Y. Narukawa, and T. Mukai. Monolithic polychromatic light-emitting diodes based on InGaN microfacet quantum wells toward tailor-made solid-state lighting. Appl. Phys. Express 1, 011106 (2008).
- Y. Matsuda, S. Funato, M. Funato, and Y. Kawakami. Multiwavelength-emitting InGaN quantum wells on convex-lens-shaped GaN microstructures. Appl. Phys. Express 15, 105503 (2022).
- Y. Matsuda, R. Umemoto, M. Funato, and Y. Kawakami. Flexible topographical design of light-emitting diodes realizing electrically controllable multi-wavelength spectra. Sci. Rep. 13, 12665 (2023).
- Y. Matsuda, M. Funato, and Y. Kawakami. Polychromatic emission from polar-plane-free faceted InGaN quantum wells with high radiative recombination probabilities. Appl. Phys. Express 10, 071003 (2017).
- Y. Matsuda, M. Funato, and Y. Kawakami. InGaN-based LEDs on convex lens-shaped GaN arrays toward multiwavelength light emitters. Appl. Phys. Express 16, 015511 (2023).