3回生へのメッセージ "光材料物性のすすめ"

 錬金術は、銅や鉛などから金を作ろうとする技術のことで、 人類はそれには成功していませんが、かのニュートンをはじめ数多くの人達が長年にわたって (物質の原子構造が明らかになる時代まで)相当な精力を注いできました。 このことから、錬金術は人類にとって怪しい魅力を持つ夢であったと言えるでしょう。 一方で、半導体や超伝導体などの材料設計は、現代の科学的錬金術と言えると思います。 たとえば、Al(一円玉)は非常によく電気を流す金属ですが、Alと酸素(空気の第二構成要素)を反応させて、 Al2O3を合成して単結晶化するとサファイアという材料になります。 これは、無色透明(宝石のサファイアに何故色がついているのでしょうか?調べてみては?)で硬いため、 スマホ画面や腕時計の窓材に使われています。また、Alと窒素(空気の第一構成要素)からなるAlNは、 バンドギャップが6.0eVとダイヤモンドよりも透明な材料(化合物半導体)であり、 次世代の深紫外発光材料として盛んに研究がなされています。また、材料をナノ構造化すると、 電子の波動関数や量子エネルギー準位を変えることができるため、 材料設計のための重要な指針となっています。2014年ノーベル物理学賞は、 日本発の青色LEDの発明に対して授与されましたが、 InGaN量子井戸を用いたバンドギャップのチューニングによって、 青色だけではなくて青紫、緑、アンバーなどの発光色を制御できる基本技術への貢献が、 高く賞賛されています。このように、光材料は大きなインパクトを持つため、 新しい波長フロンティアを目指して「新しい材料」や「構造」また「その作り方」について、 日夜研究がつづけられています。

 さて、新しい光材料が期待していた性質を持っているかを精査したり、 予想だにしなかった物性を発見的に探索したりすることは大変重要であり、 そのような学問分野のことを、光材料物性分野と呼んでいます。光が物質と出会った時、 物質は定常状態では見せない性質を露わにします。 (ある著名な研究者は、それを「物質が本性を表す」という言い方をされました。) この本性とは、励起子やプラズモンなど物質中の素励起状態のことを指しており、 光-電子エネルギーの伝搬・変換などに深くかかわっています。とりわけ、励起子は、 電子と正孔がクーロン力で結合した状態であり、ワイドギャップ半導体では、室温でも安定に存在します。 このため、励起子の再結合過程が、発光素子の内部量子効率を決定する重要な物理機構となっています。 また、金属中の自由電子による集団的な振動をプラズモンと呼びますが、 プラズモンと光の相互作用を利用した科学技術はプラズモニクスと命名され、高効率光デバイス、 光ナノ回路、バイオセンサーなど幅広い分野へ展開されつつあります。当研究室では、 励起子やプラズモニクスの基礎光物性などの研究を通して、 光と物質との相互作用に基づく新物性の発現と解明に取り組んでいます。 具体的には、低次元ナノ構造における励起子の局在効果や励起子‐プラズモンの素励起変換などに着目しており、 これまでにレーザ分光や近接場光学顕微鏡などの技術を駆使した時間・空間発光ダイナミクスによる評価と再結合モデルの構築について多くの実績を上げています。

 光材料物性研究の醍醐味は、新規の光機能性デバイスを目指して、 (1) 材料設計や結晶成長、(2) 光物性・現象の発見と解明、(3) 分光評価技術の確立(2014年ノーベル化学賞はこれに関連します)が三位一体となって研究を推進して行くところにあります。 宝石は外光からの光吸収・蛍光・散乱を受けて美しく輝きますが、苦労の末に育成した光材料が自ら光を放つさまは、 まさに地上に星を創るがごとく綺麗です.努力が報われた瞬間でもあり、感動的なものです。 ぜひこの感動をともに味わいましょう。

 最後に、研究を通じて持っていただきたい目標について述べておきます。 皆さんは、光材料物性の研究生活を通じて、ORT(On the Research Training)を受けることになります。 ORTとは、研究の最先端に到達する努力を通じて受ける教育のことですが、 勉学や実験はもちろんのこと、情報リテラシー(情報収集・整理・発信)が重要となります。 そのためには、人との議論を通じた論理的な思考力・企画力・表現力を鍛えて行く必要があります。 これらは、良い人間関係に立脚しており、 社会のどのような分野においても求められる重要な資質を涵養することに繋がっていると信じています。

2015年1月24日 川上養一


 3回生に向けた研究室紹介資料こちらです。 こちらの資料やHPで、川上研究室の雰囲気を是非感じてください。 また研究室見学はいつでも大歓迎です。研究室スタッフのメールアドレスにお気軽にご連絡ください。

川上研究室の年間スケジュール

 川上研究室では、4月から8月までの間、院試を受ける4回生には院試勉強を優先してもらっています。 卒業研究は院試の合格発表が終わってから通常始まります(希望に応じて卒業研究を早く始めることもできます)。

 それでは前期の間、研究室に全く来ないかというと、そういうわけではありません。研究会・勉強会・輪講を一週間に一度行っており、 これら行事への4回生の参加を必須としています。研究会によって、先輩達が川上研究室で行っている研究を知ってもらいます。 勉強会と輪講では、研究室の皆で議論し合うことにより、お互いの理解を深めています(勉強会と輪講に関する詳細は次項を参照下さい)。

 川上研究室ではコアタイムは特に設けていません。しかしながら、研究を一人で行うことは(特に最初)困難であるので、 先輩達と時間を調整しながら研究に取り組むことになります。研究室は、社会に出るためのこういった一連の訓練を行う場でもあります。

 飲み会やイベントでは、同回生・先輩・先生と多いに交流してください。研究室には、運動好き・お酒好きな先輩や先生がたくさんいます。 定期的に日頃の疲れをとることも非常に重要です(健康第一)。

~川上研究室での4回生の年間スケジュールの例~
4月  研究室メンバーとの顔合わせ
     研究会開始
5月  毎年恒例の川上研・藤田研合同新歓バーベキュー
     勉強会・輪講開始
6月  勉強会の発表会
7月  電気系野球大会
8月  院試
     院試お疲れ飲み会
9月  卒業研究開始
10月  卒業研究の所信表明
11月  研究室旅行
    (2019年は福井県のあわら温泉に行きました)
12月  卒業研究の中間報告
     忘年会
1月  卒業研究のラストスパート
2月  卒業論文提出
     有志を募ってスキー・スノボ旅行
3月  学会シーズン (学会デビューも夢じゃない!)
     追い出しコンパ

HOT NEWS!!
2018年2月18日に開催された京都マラソンに研究室メンバーで出場し完走しました! 研究も運動も全力です!

川上研究室の風景

1. 川上研究室博士課程学生の松田祥伸君が自身の研究について語ってくれました

2. 深紫外~可視~近赤外光を出射できるピコ秒パルスレーザを発振させている様子

3. ピコ秒パルスレーザを光軸調整している様子

4. 緑色発光窒化インジウムガリウム(InGaN)を蛍光顕微鏡で観察している様子

勉強会について

 川上研究室では、M1の学生がB4の学生に向けて、毎年勉強会を開きます(例年5月から7月にかけて6回程度)。
勉強会では、卒業研究への橋渡しとなる内容をM1の先輩が分かり易く説明してくれます。 4回生は、全ての勉強会が終わった後、いずれかの内容について調べて資料を作成します。 そして、M1の先輩に資料を添削してもらって、その内容について発表します。

 勉強会では、"卒業研究を行うための基礎的素養"を学ぶこと、"資料を作成・発表する力"を身に付けること、そして"研究室の先輩と交流すること"の三つを目的としています。

~例年の勉強会の内容~
第1回  結晶工学の基礎   (七晶系、ブラベ格子、点群、逆格子、エピタキシャル成長など)
第2回  X線回折の基礎    (ブラッグの法則、構造因子、禁制反射、各種スキャン方法など)
第3回  窒化物半導体の基礎 (結晶構造、電子バンド構造、混晶の物理など)
第4回  酸化物半導体の基礎 (結晶構造、電子バンド構造、電子デバイスなど)
第5回  顕微観察の基礎   (光学顕微鏡、原子間力顕微鏡、走査型・透過型電子顕微鏡など)
第6回  光学測定の基礎   (フォトルミネッセンス法、反射・吸収分光法、時空間分解分光法など)

輪講について

 川上研究室では、学士課程学生から博士課程学生の皆で輪講を一週間に一度行っています(先生も来たりします)。 輪講とは、教科書のある範囲(たとえば10ページくらい)の内容を、担当者が"自分の言葉"で皆に説明する場です。 自分の順番が数か月に一度回ってきて、その内容について皆で討論します。

 輪講では学年は一切関係ありません。自分の理解が試されます。内容を本当に理解しているならば、人に分かりやすく説明できるはずです。 逆に言えば、人に上手く説明できないようでは、本当に理解しているとは言えません。
輪講では、"本当の意味で物理を理解する力"と"人に説明する力"を磨くことが目的です。

 教科書に関しては、和書と洋書、それぞれにメリットがあると考えており、特にこだわっていません。和書は母国語で記述されているので深い議論が可能、洋書は研究英語への橋渡しとなってくれます。 以下に、これまでの川上研究室の輪講の歴史を記します。


~川上研究室の輪講の歴史~

2022年度  "半導体デバイス 基礎理論とプロセス技術"、S. M. Sze.
       感想:知らない人はいない超有名本
       内容の濃さ ★★    内容のわかり易さ ★★★   言葉のわかり易さ ★★★   

2021年度  "半導体の物理"、御子柴宣夫.
       感想:電子系の学生は修士卒までに手に取っておくべき本
       内容の濃さ ★★    内容のわかり易さ ★★★   言葉のわかり易さ ★★★   

2020年度  "Luminescence Spectroscopy of Semiconductors", Ivan Pelants and Jan Valenta.
(後期)    感想:多少読解しにくい箇所があるが分光屋さん必携の本
       内容の濃さ ★★★   内容のわかり易さ ★★★   言葉のわかり易さ ★★     

2020年度  "結晶成長のしくみを探る", 上羽牧夫.
(前期)    感想:結晶成長の物理的基礎に重点を置いて書かれた本
       内容の濃さ ★★   内容のわかり易さ ★★   言葉のわかり易さ ★★★     

2019年度  今年度も輪講は休講で、勉強会のみの開講でした
       感想:??
       内容の濃さ ??   内容のわかり易さ ??   言葉のわかり易さ ??      

2018年度  今年度も輪講は休講で、勉強会のみの開講でした
       感想:??
       内容の濃さ ??   内容のわかり易さ ??   言葉のわかり易さ ??      

2017年度  今年度は輪講は休講で、M1・M2の学生がB4の学生に、OBの卒論・修論の内容紹介をしました
       感想:非常に有り難かった(by B4)
       内容の濃さ ??   内容のわかり易さ ??   言葉のわかり易さ ??      

2016年度  "結晶欠陥の物理", 前田康二.
(後期)    感想:結晶欠陥の物理についてしっかり書かれた本
       内容の濃さ ★★   内容のわかり易さ ★★   言葉のわかり易さ ★★★     

2016年度  "結晶成長のしくみを探る", 上羽牧夫.
(前期)    感想:結晶成長の物理的基礎に重点を置いて書かれた本
       内容の濃さ ★★   内容のわかり易さ ★★   言葉のわかり易さ ★★★     

2015年度  "Light-Emitting Diodes", E. Fred Schubert.
       感想:発光ダイオードの基礎から応用まで広範な内容が含まれている本
       内容の濃さ ★★   内容のわかり易さ ★★★   言葉のわかり易さ ★★     

2014年度  "Luminescence Spectroscopy of Semiconductors", Ivan Pelants and Jan Valenta.
       感想:多少読解しにくい箇所があるが分光屋さん必携の本
       内容の濃さ ★★★   内容のわかり易さ ★★★   言葉のわかり易さ ★★     

2013年度  "Epitaxy of Semiconductors (Introduction to Physical Principles)", Udo W. Pohl.
       感想: 多少前提知識を要求しているが結晶工学に関する広範な事項が書かれている教科書
       内容の濃さ ★★    内容のわかり易さ ★★    言葉のわかり易さ ★★    

2012年度  "Basic Semiconductor Physics", Chihiro Hamaguchi.
       感想:内容は高度で難しいが研究に使える内容が多数含まれている本
       内容の濃さ ★★★   内容のわかり易さ ★★    言葉のわかり易さ ★★    

2011年度  "半導体の物理"、御子柴宣夫.
       感想:電子系の学生は修士卒までに手に取っておくべき本
       内容の濃さ ★★    内容のわかり易さ ★★★   言葉のわかり易さ ★★★   

2010年度  "Optical Properties of Solids", Mark Fox.
       感想:固体光物性の入門書として優れた教科書
       内容の濃さ ★★    内容のわかり易さ ★★★   言葉のわかり易さ ★★★   

就職先について

 川上研究室の卒業生の就職先は多岐にわたっています。たとえば修士卒学生の就職先として、電機メーカー、自動車メーカー、機械メーカー、電力会社などが挙げられます。 川上研究室に配属されたからといって、光材料関係に就職先が制限されることはありません。

 また、川上研究室では博士後期課程への進学も奨励しています(修士課程のことを博士前期課程、博士課程のことをとくに博士後期課程と呼ぶことがあります)。博士卒学生の就職先としては、民間企業、大学教員、公的研究所、企業研究所などが挙げられます。 博士号を取った卒業生は、博士後期課程で会得した高度な専門知識を直接的に生かすだけではなく、 それまで育んできた問題解決能力を糧にして、新しい研究・開発分野に取り組み、国際的に活躍しています。